エルサルバドルで導入されたチボウォレット。日本では聞きなれないものだと思います。なぜ、チボウォレットが導入されたのか、そもそもチボウォレットとはどういうものかを解説します。
ビットコイン法の背景
なぜビットコインを法定通貨にしようということになったのかという点ですが、主に国の不安定さがあります。
エルサルバドル国内で流通している通貨に関してですが、「コロン」という通貨が2001年ごろまで流通していたのですが、現在では米ドルが流通するようになりました。
米ドルは世界的に見ても信頼できる通貨であるため、わざわざビットコインを法定通貨にする理由はないように見えます。しかし、エルサルバドルでは銀行口座を持たない人も珍しくないのです。
日本ではアルバイトでも給料の受け取りは銀行口座というのが一般的です。高校生以上で、自分の銀行口座を持っていない人はまずいないでしょう。さらに、日本円は非常に安定した通貨です。
ですが、銀行口座を持たない人が多いなら話は別です。銀行が使えないのでビットコインでお金をやり取りする必要があるのです。ビットコインはスマートフォンがあれば、だれでも資産を保管したり送金できるので導入のハードルも低いです。
ビットコインには管理者となる存在がいませんから、良くも悪くも誰でも平等です。新興国では国自体の信用が低いところもあるため、資産の一部をビットコインにすることで資産を防衛するという意味もあります。
そのような背景があり、ブケレ大統領を中心としてビットコイン法が成立しました。
チボウォレット(ChivoWallet)とは
チボウォレットはエルサルバドル政府によって開発された仮想通貨ウォレットです。スマートフォンのアプリとしてリリースされました。
日本でも政府により開発された「マイナポイント」というアプリがありますが、政府により開発されたという点ではチボウォレットと共通しています。
チボウォレットは主に決済手段として使用するアプリなので、使用用途としてはPayPayやLinePayのようなアプリに近いです。
下記ツイートは、チボウォレットで実際に決済している様子です。
電子マネーと同じような感覚で決済しているのがわかります。利用できるのはエルサルバドル国内だけで、日本ではもちろん利用できません。
仮想通貨ウォレットとしての役割
チボウォレットでどのようなことができるかという点ですが、基本的な機能として電子マネーのように支払いが可能です。マクドナルドやスターバックスでチボウォレットを使ってビットコイン決済が可能です。
チボウォレットはビットコインの保管だけでなく、米ドルなどの法定通貨もこのアプリで保管することができます。さらに、ビットコインから米ドルへの変換や米ドルからビットコインの変換がアプリ内でできます。この変換は手数料が無料というのがうれしいところです。通貨の両替は、仮想通貨のみならず法定通貨でも手数料がかかるのが一般的です。
チボウォレット同士でビットコイン送金することも可能なので、個人間でお金のやり取りをすることもできます。お小遣いをビットコインで上げるという家庭も出てくるかもしれませんね。
また、初めてチボウォレットを利用すると30ドル相当のビットコインが配布されます。初回限定特典のようなものでしょう。
このように、ウォレットとしては基本的な機能を持っています。ただ、使用される通貨がビットコインというところが特別ということになります。
世論調査による国民の反応
世論調査では、ビットコイン法はあまり好意的には受け入れられていませんでした。ビットコインのボラティリティが法定通貨と比べると高いためです。
自分の資産が1日で10%以上も動く可能性もあると考えると全く落ち着かないでしょう。例えば、ビットコインを100万円相当持っていたとすると、これがたった1日で90万円になるということもあり得るわけです。
日常的な場面で考えると、今日は100円だったコーヒーが1日後に90円で売られているということが、ビットコインの世界では起こります。
日本円や米ドルならここまで激しい動きにはなりません。法定通貨は国がその価値を保証していますが、仮想通貨には価値の保証がありません。
人間というのはリスクを嫌います。お金という生活するのに必要なものが、大きく上がったり下がったりするというのは精神衛生上良くないことは想像に難くないでしょう。
チボウォレットは普及していくのか
世論調査では印象が良くなかったので、チボウォレットは普及には時間がかかると思われましたが、実際には普及は進んでいて着々と利用者が増えているのは間違いありません。
ブケレ大統領のツイートによると、10月4日時点でのチボウォレットの利用者は300万人を超えているそうです。
エルサルバドルの人口が約650万人ですから、半分弱の人口がチボウォレットを利用しているということになります。チボウォレットのリリースからたった1か月で国民の半分が利用するサービスとなれば、かなり普及速度は速いといっていいでしょう。
日本でもマイナンバーカードが発行されていますが、2021年8月時点ではまだ交付率はたったの36%です。交付開始が2016年1月ですから、約5年と半年も経過しています。それでも交付率は半数に満たないのです。
新しいものはまず様子を見るという人も多いと思います。特にチボウォレットはお金にかかわるので、より一層慎重に使用の判断をするのも無理はありません。
ビットコインで決済できるようになるといっても米ドルは通常通り使えますし、何といっても法定通貨の価値は短時間で大きく上下することがありません。価格が安定しているものを持ちたいのが普通でしょう。
ネット環境についてですが、決済を行うのでスマートフォンは必須です。日本であれば1人1台スマートフォンを持っていて、さらには公共の場でもwifiが充実しています。いつでもどこでもネットに接続することができるわけです。なので、電子マネーを使うハードルは非常に低いです。
しかし、エルサルバドルでは人口のおよそ半分はネットにアクセスすることができません。なので、ネットインフラを整備することが必須になります。店舗などの企業側だけでなく、国民をサポートすることも必要になってきます。
格付け会社のムーディーズはエルサルバドルのビットコイン法を承認した後に、信用格付けを引き下げました。つまり、世界的に見ればビットコインを法定通貨にするというのは信用が不足しているということになります。
仮想通貨を法定通貨として扱う取り組みに協力する企業はありますが、まだ少数派と言えそうです。
まとめ
ビットコイン法が始まったばかりの段階では、問題点もありましたが普及は進んでいます。ビットコインを法定通貨にするという試みは世界でも全く例がないので、今後どうなるかは予想が難しいです。
それでも、ビットコインをはじめとして、仮想通貨が一般社会へと浸透していく動きは活発になっていくでしょう。エルサルバドル以外でも、仮想通貨を法定通貨とする国が今後出てくるかもしれません。